コラム

DXを下支えするIT組織が直面する2つの課題⑥~運用領域で求められるベンダーマネジメント~

DXを下支えするIT組織が直面する2つの課題⑥~運用領域で求められるベンダーマネジメント~

2024年1月19日

 

著者: 鈴木 智裕

2007年 株式会社ユニリタ(旧社名:株式会社ビーエスピー)入社。ITIL関連、運用改善コンサルティング、人材育成セミナー講師などを担当。コスト削減、ITのビジネス貢献・価値向上といった上流の課題から、現場レベル課題の改善までお客様の潜在的なニーズを見つけ提案型でオールラウンドに施策の立案、実行の支援が可能。

ソーシングと共に整備すべきベンダーマネジメントの必要性

前々回前回とコストと社員リソースの処方箋として委託範囲の拡大やコスト削減に向けたソーシングについて論じてきました。
今回はこれらと合わせて整備すべきベンダーマネジメントに触れていきたいと思います。

今まで、リソースとコストの問題への対策としてソーシングに関する説明を行ってきました。
以下の図表のオレンジの矢印で表現していますが、社員業務をサービスインテグレータにパスをする。
そして、それだけだとキャッシュアウトが増えてしまうことを防ぐ、アウトソーシング済みの領域のベンダー移行も含めたさらなる最適化を進める。
これらの取り組みは費用増を最小化しつつ、ベンダーへ委託範囲を増やす営みとなります。
これによって、捻出したリソースを事業側で進められるDXを支援するといったソーシングを使った構造変革です。


しかし、委託範囲を増やせば増やすほど、ブラックボックスを発生させるリスクも増加します。
このブラックボックスを防ぎ、持続的に最適化をするための方法がベンダーマネジメントとなります。

Webや書籍で述べられるベンダーマネジメントは調達など開発ベンダーに対する管理となりますが、ここでは運用領域で求められるベンダーマネジメントについて考えていきましょう。

運用領域のベンダーマネジメントを通じて実現したい状態とは

ベンダーマネジメントという方法論を論じる前に、具体的にどんな状態を作るための方法論とするかについて確認をしていきましょう。

「委託した運用保守業務を可視化、標準化し、品質とコストを最適化する」

これを目的として何をするべきかについて述べていきたいと思います。
以下に弊社が考える上記の目的を達成するために必要だと考えるプロセスを記載します。

大きな構成要素としては、二つの分類に整理しています。
①ベンダーの管理をするためのプロセス
②業務遂行を標準化するためのプロセス

ベンダーを管理するプロセスとは

ベンダーを管理するプロセスとして「ベンダー契約管理」、「サービスカタログ管理」、「サービスレベル管理」の3つを挙げさせていただきました。
これらは、実際に我々がコンサルティングを行う上で、必要であったものを設定しました。

<ベンダー契約管理>

まず、運用保守業務の委託契約があっての関係となるため、どのような契約となっているか。費用の対価として定義されているものは何か。どういった構成で価格が設定されているか。
これらを明らかにされた状態を作っていく必要があります。契約や委託する業務仕様のまとめ方、見積りがどんな単位や期間で構成されているかなど、規定することで、横並びに確認することが可能になります。

ベンダーごとに契約の構成や業務仕様で述べられること、見積りの単位も異なることが多く、軸となる考え方やルールがない場合、妥当性を評価するのは極めて時間がかかってしまいます。
個々に契約管理の必要性があります。

 

<サービスカタログ管理>

前回のコラムにて業務を可視化するためのサービスカタログ(業務一覧)について触れました。ブラックボックス化を防ぎ、現在対象のシステムやベンダーに委託している業務の総量や増減を把握することは極めて重要になります。
サービスカタログが整備され、契約管理で見積り仕様も規定された二つの条件が掛け合わさることで、具体的にどれだけ業務を改善し、効率化すると、どれだけの金額的なメリットがあるかも算出可能になりますし、ベンダーの立場から見ても、新たにこれだけの業務を追加で受けることになっても、同じ体制で対応できていると示す論拠にもなります。

運用の現場では、ベストエフォート、グレーゾーンで現場の担当の方が何とか支えているものの、それが可視化されずよくわからないけど、忙しいといった状況が多々あります。
社員の視点、ベンダーの視点で見ても双方共に最も重要なコミュニケーション手段となると考えています。

 

<サービスレベル管理>

サービスレベル管理とは、あらかじめ合意したSLO(サービスレベル目標)やKPI(重要業績評価指標)に基づき、月次などの報告にて実績・分析・改善のサイクル回していきます。
このサイクルを回す上でも、SLOやKPIをはじめとする報告内容各社によって全くことなる場合、比較評価することは難しくなりますし、システムの担当が変わった際にはサービスレベルを把握する仕組みの理解から始める必要が出てきてしまいます。

もちろん対象とするシステムなどにより、一律に横並びに同じ指標で評価をするということはできません。ただし、どういった意図で何を評価し、どの程度改善するのかなど、標準的なルールを設けて、ベンダーが変わっても同じ考え方で管理ができる状態を作る必要があります。

他にもベンダーを管理するプロセスとして、必要なものを挙げることはできると思います。
ベンダーごとに評価DBを設けたり、モチベーションを管理する活動を設計するなど、どれも必要性があるものであると考えていますが、
弊社としては「最低限」この3つのプロセスは必要なのではないかと考えています。

業務遂行を標準化するためプロセスとは

業務遂行を標準化するためのプロセスとして挙げさせていただいたのは「サービス要求管理」「イベント管理」「インシデント管理」「問題管理」「変更管理」「リリース管理」です。
いわゆるITSMツールやITILツールと呼ばれるものを使ったことがある方は耳馴染みがあるプロセスではないでしょうか。

ではなぜこれらをベンダーマネジメントに必要なプロセスとして挙げたか。
それは運用保守業務における主要な業務領域として、その遂行を標準化すべきであるとして挙げています。

例えば、インシデント管理として障害対応などを行う業務はどんなシステムの領域でも、どんなベンダーでも運用保守業務の委託内容にはほとんどのケースで含まれる内容かと思います。
しかし、ことインシデントが何を示すのかはベンダーによって定義が異なる可能性があります。

インシデントといえば、利用者からくる単一のクライアントでの障害も含むという考えもあれば、全社システムで発生する広範囲に影響がある障害をインシデントだとするケースもあるかもしれません。どのシステムやベンダーの領域でどれだけインシデントが発生しているかも正しく件数を抑えることが難しくなります。実は数が少ないと思っていたら、インシデントの定義が狭いもので数にカウントされていないものあれば、やたら数が多いのは、定義が広いからだったということもあるかもしれません。

また、主要な業務のプロセスがベンダーごとにことなれば、担当が変わるたびに、その背景を抑えるところから始めなくてはいけません。
あるベンダーは変更管理を行う上で強度の高い確認を行っているのに対して、別のベンダーさんは誰の確認もなく進んでいたという品質にも影響がある違いが出る可能性があります。
そのため、これらのプロセスには、あらかじめ自社の標準としてガイドラインやルールを取り決め、それに従って運用保守を行ってもらうことで、品質の安定化や都度運用設計する領域も減り、開発コストや移行コストについても効率化が見込めます。

こういった直接的にベンダーを管理するためのプロセスやベンダーに標準的な業務を遂行してもらうプロセスを規定し、それに沿った運用保守を進めてもらうことで、

「委託した運用保守業務を可視化、標準化し、品質とコストを最適化する」に近づくことができると考えます。

 

ベンダーマネジメントの構築は誰が行うのか

前述したベンダーマネジメントの仕組みは、IT人材が不足し、社員だけでは回らず、ベンダーに運用保守を委託することが前提となりうる現在において、必須の仕組みとなります。

では、自社でベンダーマネジメントのプロセスを有する企業はどの程度存在するのか。
統計的なデータはありませんが、こと運用領域においてその仕組みを有する企業は多くはないのではないでしょうか。
しかしながら、重要性も認識され始めてはおり、中期計画上の施策に挙げて今まさに整備が進めようという状況だと感じています。

ベンダーマネジメントは単一のシステムの運用設計ではなく、マルチベンダー構造を横ぐしに通す仕組みとなります。
その為、そもそもシステム担当ごとに分かれていて、横ぐし仕組みを検討する人がいないというケースもあります。

まずもって、システムの担当一人でどうなるものでもないため、組織全体として、できるならばトップダウンで活動を推進する機能を作っていくことがもとめられます。

弊社はそういった方を応援し、共に創り上げ、浸透・定着し、「委託した運用保守業務を可視化、標準化し、品質とコストを最適化する」を専門に実施しているコンサルティング企業となります。是非ご興味あれば、ご相談いただければ幸いです。

次回は本テーマとしては最終回として、IT部門がリソースとコストの課題をクリアした先にどこへ向かうべきかについて述べていきたいと思います。

長文のご拝読ありがとうございます。それではまた。

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