コラム

DXを下支えするIT組織が直面する2つの課題⑤~運用コストの削減方法~

DXを下支えするIT組織が直面する2つの課題⑤~運用コストの削減方法~

2023年12月3日

 

著者: 鈴木 智裕

2007年 株式会社ユニリタ(旧社名:株式会社ビーエスピー)入社。ITIL関連、運用改善コンサルティング、人材育成セミナー講師などを担当。コスト削減、ITのビジネス貢献・価値向上といった上流の課題から、現場レベル課題の改善までお客様の潜在的なニーズを見つけ提案型でオールラウンドに施策の立案、実行の支援が可能。

運用コスト削減の方向性

前回までのコラムにて社員リソースの慢性的な不足に対して、委託範囲を拡大について述べてきました。
委託範囲を単純に拡大するだけでは、運用コストは増大し続けてしまいます。
委託範囲の拡大を行い、社員リソースを確保しながら全体のコスト増加を最小化する仕組みが必要となります。

 

コスト削減の可能性を方向性を述べていく前に、どの程度の運用コスト増加まで許容すべきかについても考えていきたいと思います。

第2回のコラムにて業種別の売上高に対するIT予算比率を述べましたが、その比率をまずはベースラインと考え、
売上高の成長率をかけ合わせると、年度ごとのIT予算規模のターゲットが見えてきます。

その上で、同コラムの中で述べているランザビジネスとバリューアップ予算の現在の比率と目標とすべき比率を出すと、
運用コストの増額分として許容範囲の大枠を捉えることが可能になります。
注:あくまでも考え方としてなので、実際の数字は各社の数値を当ててみる必要があります。

こうした考え方により、目指すべき予算構造、委託構造などを定量的に捉えていき目標感を設定していくことが重要となります。
その上で、必要となる委託範囲の増加分とコスト削減額のターゲットをだしていくことで、「どこまで取り組むべきか」を具体化していくことが可能です。

運用コスト削減の出口戦略(ソーシング)

運用コストの削減にはいくつも手段はありますが、今回は以前より話に出している運用役務コストにフォーカスした話をしていきます。
運用役務コストを下げる方法として今回は大きく2つの考え方について触れていきます。

①既存ベンダの委託コストを最適化する
②より廉価なベンダーに移行する

これらは、限界があるアプローチではあるものの、効果が出しやすいアプローチといえます。

①②共通してまずもって取り組むべきことがあります。それは、既存運用の「価値分析」となります。
端的に言うならば、「適正なコストで運用委託をしているのかを確認しましょう」です。

例えば、以下のような観点があります。

・委託している業務内容は適切か
・委託している業務内容に対して、契約内容は適切か
※具体的にどんなことを調べるべきかについてご興味がありましたらお問い合わせください。

これらを調べていくと、以下のようなケースが検出される可能性があります。

・業務量が減っているにも関わらず、委託業務内容が変わっていないケース
・契約仕様に述べられているものの、実施されていない業務が見つかるケース
・本来オペレータで実施すべき定型業務を高単価の保守SEが実施しているケース
・横ぐしの視点で見ると、A社は業務量が超過しているが、類似業務を実施しているB社には余力があり、移管により平準化が見込めるケース
・サービスレベルを変更することで、変更による影響は軽微だがコスト面の大きな効果が見込めるケース

価値分析を定期的に行い、運用コストの削減可能性確認していくことが最初に着手すべき取り組みとなります。

運用コスト削減などは、体制を変更する可能性があり、体制変更は運用品質の低下のリスクにもつながります。
何故実施するのか、定量的な効果間を抑えることが、これから必要となる幾重の合意形成において重要となります。

1点、注意事項としては、あくまでもこの段階での分析結果は机上の理論値であるため、
「この通り削減ができますとコミットするもの」ではなく、「このくらいのポテンシャルが見込めるため施策としてすすめるべき」を
問う位置づけであることを前提にする必要があります。数字が一人歩きしてしまうという状況は防ぐ必要があります。

ベースとなるサービスカタログ(業務一覧)

運用保守に取り組む上で重要な文書はいくつかあり、別の回で文書自体をテーマにしたコラムを書きたいと思いますが、
最も重要ともいえるのがサービスカタログ(業務一覧)であると考えます。

あるベンダーに委託している業務が具体的にどういったものがあるのか。
それはどの程度の量が存在しているのか。
その業務はどういった人材が担うべき難易度の業務なのか。
業務遂行を行うためのフローや手順書はそろっているのか。

これらの情報をまとめたサービスカタログを持つことで、前述した価値分析が可能になります。
また、価値分析を行い、仮にベンダー移行を施策として取り組むとした場合には、サービスカタログは最も重要な委託業務の要件を提示する資料にもなります。

サービスカタログを作成していく上でのポイントとして網羅性の担保と粒度感が課題になります。
そのため、弊社で作成をご案内する際は、業務の分類としてあらかじめ、マスタを用意することでの網羅性の担保と、
粒度感については例を提示することでそろえた形となるようご提案をしています。

サービスカタログが作成され、それらが維持管理される状態を作ることで、どのような出口戦略をとるべきか意思決定する大きなデータソースとなっていくのです。
サービスカタログを基にしたかちぶんせきを 行うことで現状xx円の運用役務コストがかかっているが、yy円できる可能性があるといった情報が確認できます

運用コスト削減に必要となる期間の考え方

前述した運用役務コストの最適化によるコスト削減は、最終的に現状の委託契約に変更を加える可能性が高い取り組みとなります。
運用役務の委託契約は最短で3か月ごと、6か月間や1年単位契約更新することが多いです。
そのため、前述した出口戦略を行うとした場合、契約更新のタイミングを見据える必要があります。

本論からは外れますが、契約条項の中には、契約内容の変更を行う際は、契約更新の●●カ月前までに打診を行うことといった条項が含まれるケースがあります。
※体制を構築するための人材を動かすためにはリードタイムが必要
仮に契約上の取り決めがない場合でも体制の規模にもよると思いますが、最低でもベンダー側でも対応を行うリードタイムを確保するため、
3か月前までは打診および合意していることが望ましいです。

話を戻すと、契約更新が大きな契機になりますので、どの契約更新タイミングで変更をかけるかとなるため、
期の区切り目が必然的にマイルストーンがおかれやすくなります。

必要となる期間についてはあくまでも目安ですが、月当たり、10人月を超える委託を行っている場合、
既存ベンダーの契約を見直す際でも価値分析の着手から6か月~12か月程度は見込む必要があると思います。
ベンダーを移行する際は規模にもよりますが、12カ月~18カ月程度は見込むべきだと思います。

社員主導で進める必要性

ここまで述べた取り組みはサービスカタログの作成自体は委託ベンダに依頼する形が多いですが、
ベンダーに依頼できる範疇をこえた判断が伴う領域のため、他の取り組みは基本的には社員が主導する必要があります。

委託している内容を最適化し、コストを削減したい。これは発注側としての責任として臨むべき事項で、ベンダーがやってくれないと嘆く類の話ではないです。

もし、こういった取り組みがまだ、社員の業務に組み込まれていない場合、一度試しにもで取り組んでみてはいかがでしょうか。

今回はここまでとなります。
次回は、社員が取り組むべき「ベンダーマネジメント」について触れていきたいと思います。

ご拝読ありがとうございました。次回をお待ちください。

 

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