コラム

DXを下支えするIT組織が直面する2つの課題②~運用コストの構造と課題~

DXを下支えするIT組織が直面する2つの課題②~運用コストの構造と課題~

2023年8月15日

 

著者: 鈴木 智裕

2007年 株式会社ユニリタ(旧社名:株式会社ビーエスピー)入社。ITIL関連、運用改善コンサルティング、人材育成セミナー講師などを担当。コスト削減、ITのビジネス貢献・価値向上といった上流の課題から、現場レベル課題の改善までお客様の潜在的なニーズを見つけ提案型でオールラウンドに施策の立案、実行の支援が可能。

企業のIT予算はどの程度なのか

前回のコラムではIT予算の内訳としてランザビジネスとバリューアップの比率について述べました。
そもそも、企業のIT投資はどの程度なのかについても触れておきたいと思います。
 

出典:日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)『企業IT動向調査2023』

上記のグラフからは業種ごとに企業の売り上げに対してのIT予算の比率が述べられています。最も高いのは金融・保険でトリム平均値(外れ値や異常値を除いた平均)で22年度8.69%とありますが、全体では1.24%程度となっています。このことから業種により違いはありますが、売上高の1%強がIT予算となっていることが分かります。

IT予算とランザビジネスの内訳とは

IT予算におけるランザビジネスとバリューアップ予算の比率に話を戻しますと、22年度段階でIT予算の76.1%がランザビジネスに割かれています。
仮に売上高1000億円の会社があるならば、1.2%の12億円がIT予算。その中の約76%なので、9.1億程度がランザビジネスの領域になります。

出典:日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)『企業IT動向調査2023』

更にランザビジネスの領域はどういった品目があるかを整理する際に参考になるものとして、同じくJUASが発行している『IT運用コストメトリックス調査2020』では、コスト構造を示したものとして以下の図が提示されています。ランザビジネスとして語られたデータと運用コストが必ずしもすべてが一致する定義ではないとは思いますが、実態を理解する上では参考になります。

出典:日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)『IT運用コストメトリックス調査2020』

 

効率化のターゲットとなりやすい運用役務コスト

運用設備系コストやクラウドサービスコストなども調達コストを下げるといったアプローチはありますが、やはり企業よりご相談をいただくことが多いのは運用役務コストの効率化を求められている声を多くいただいてると感じます。運用役務コストについては、正確なデータはなく、私の支援例では運用コスト全体のおおよそ40%~60%程度が運用役務コストに係るものとなっていました。

先ほどの売上高1000億円の企業を再度例にするならば、1000億円の1.2%(売上高IT予算比率)の12億円、12億円の76%(ランザビジネス)で9.1億円、9.1億円の仮に50%(運用役務コスト比率)を運用役務コストとするならば、4.5億円強が運用役務コストになります。

上記は、あくまでも業種や事業規模にもよって異なるとは思いますが、一つ目安としてみていただければと思います。
※あくまでも考え方や大枠のボリューム感を押さえるためのシミュレーションであることをご承知おきください。

 

運用役務コストに関する課題認識

長年同一のベンダーに委託をしている場合などは特にその傾向が強いと感じますが、委託内容がブラックボックス化し、本当にその費用が妥当なのか実態がつかめず課題認識を持たれるマネジメントの方から相談を多く受けます。

毎年システム追加などによる業務増などの業務の差分により契約内容は見返しているものの、そもそもが妥当なのかは評価が適切に行えていると感じている企業は多くないと感じます。
そういった中で漠然としたコスト削減要求なども横行していると感じますが、これは持続可能性を欠いており、ベンダーの改善意欲も奪う為全くお勧めできません。

運用役務コストに関しては、漠然と高いという課題認識が先に来ますが、本質的な課題としては運用役務コストが適切な評価ができる状態になっていないことです。

運用保守の役務コストが高止まりする真の原因

運用保守の役務コストが高止まりする最も分かりやすい要因としては、運用保守対象システムの増加に伴う業務量の増加が挙げられます。
対応しなくてはいけない業務内容・量=運用保守の役務体制・コストにはねてくる形です。

しかしながら、その前述した通り、業務内容や業務量の内訳が可視化できているケースは多くありません。

特に、ユーザに寄り添って柔軟に動いてくれているベンダーほど、管理が難しくなるため、ブラックボックス化する傾向が強いです。
そのため、頑張ってくれているとは思うけど、実態が見えず、依然として高止まりする運用役務コストに定期的に漠然としたコスト削減要求が突き付けられるというのが繰り返されてはいないでしょうか。

これらは、実はベンダー側の視点でも現場の実態を抑えきれない状況があります。
柔軟に寄り添ってくれればくれるほど、業務遂行に最適化され、本来必要な管理の優先度が下がっており、結果としてベンダーの中の管理が不十分になることがあります。

上記のようなケースに陥る要因としては、以下が挙げられます。

  1. トラブルが頻発したり高いユーザニーズにこたえるため、管理に割くほどの余力を持てないケース
  2. 管理の方法が確立されておらず、業務遂行にフォーカスされるケース

先ほどベンダー側でもと述べたのは、現場に入っているサービスマネージャ含めて業務遂行に偏りすぎると、管理が不足し、内情が分からず、ベンダーが会社としての対応を取ろうにも、逆に手が出せない状況などが発生します。そのため、ベンダーとしても差分を提示するだけしか根拠を提示できないジレンマのようなものを今まで多く目にしてきました。

現場は現場で何とか回すために必死になっており、そこに瑕疵はないです。しかし、業務遂行に最適化しすぎており、そのプラスを享受してきたが故にその分管理が行き届かず、発注側の社員だけでなく、ベンダーの会社の対応という部分も後手になるという構造的な課題が作られてしまいます。

では、こういった状況をどう打開し、運用コストの最適化を実現していくのか。
次回以降、社員側のリソース上の課題を述べたのちに対策の方向性を説明していきたいと思います。

長文になりましたが、今回はここまでとなります。
ご拝読ありがとうございました。次回をお待ちください。

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