コラム

DXを下支えするIT組織が直面する2つの課題③~社員リソースの慢性的な不足の原因~

DXを下支えするIT組織が直面する2つの課題③~社員リソースの慢性的な不足の原因~

2023年9月19日

 

著者: 鈴木 智裕

2007年 株式会社ユニリタ(旧社名:株式会社ビーエスピー)入社。ITIL関連、運用改善コンサルティング、人材育成セミナー講師などを担当。コスト削減、ITのビジネス貢献・価値向上といった上流の課題から、現場レベル課題の改善までお客様の潜在的なニーズを見つけ提案型でオールラウンドに施策の立案、実行の支援が可能。

拡大を続けるIT利用

本コラムの初回にて社員が新たな役割を担うためのリソース上の課題について述べました。今回はそちらを深堀りしていきたいと思います。
まずデータを見ていきましょう。以下のデータは矢野経済研究所が出している2022年度の国内民間企業のIT投資実態と今後の動向を示したものとなります。

出典:矢野経済研究所 『国内民間IT市場規模推移と予測』

国内のIT需要は事業のデジタル化に伴い、成長傾向にあることは働いている方の肌感覚としても伝わるものではないかと思います。
これを各企業のIT部門に照らしてみても、IT予算は増加傾向にあり、実際にシステムも減るよりも増えるペースの方が早い状況となります。

不足するのIT人材。深堀りすると本当に不足するのは社員機能

IT人材の不足は経済産業省の調べでは2030年に79万人のIT人材の不足が論じられています。
実際に人材不足に直面しているお客様の支援をしていると、共通で感じる人材不足とはいわゆる『社員が担うべき機能』に不足があるのだと感じています。

以下の左図はIPAが事業会社(ユーザ企業)におけるIT業務の全体像を示したユーザスキル標準(UISS)です。
大きな流れとして「全社戦略」に基づき、「事業戦略」が策定され、さらに「IS戦略」に落とし込まれます。
ここまでの流れは主にIT組織でもマネジメント層に当たる方が多くを担い、IT部門の担当者はそこから派生する個別案件と表記された開発系の業務と、運用・保守の領域に流れ、それらが評価され、フィードバックされていくという流れがあります。

業界によっても異なると思いますが、非常に潤沢なIT人材を抱えていない組織では、アプリケーション層としてシステム担当を設置し、
インフラ領域は技術の領域ごとに担当が設置されており、上記の開発して運用保守するまでのバリューチェーン全体を実働部分をベンダに委託しつつ、全体を見ているケースが多いと感じます。

以下は社員が担う業務を概念化したものです。どの程度委託しているかは企業によって異なるとは思いますが、委託契約の指示命令に基づき業務を遂行するという契約構造になっていることから多くのケースで「方針に基づく実施」にとどまっていると思います。
しかし、業務総量としては多くないものの、ユーザ調整や実現案の検討やベンダ調整などの他の業務も一人の社員の業務のうちの何割かを占めるため、社員当人としては非常に大きな負荷ともいえます。

 

社員リソースの慢性的な不足の原因

ここまでの話を整理すると要点は以下です。

・IT利用は拡大し続け、業務量は増え続ける
・システム領域ごとに担当が配置され、バリューチェーン全体を担っているケースが多い
・委託できているのは一定の業務総量がある「方針に基づく実施」の範囲で「ユーザ調整」「実現案検討」「ベンダ調整」などの業務は負荷が重いが委託しきれていない

だったら、委託範囲を増やせばいいのではないかとなりますが、答えはYESです。もちろん社員を増やすという選択肢も進めるべきですが、採用のスピード感にも限界があります。
現実的な解としては委託範囲の拡大が必要になります。

ただし、これにはIT組織側の視点からも委託先のベンダー側の視点から見ても難しさが隠れています。

<IT組織側の視点>
一つ目は、「委託業務仕様のパッケージングの難しさ」が挙げられます。これはまず業務量の問題として、一人当たりでみると負荷の比率は高くとも総量として1人月フルで稼働が必要なものではないです。すると、複数名のこれらの仕事を取りまとめて委託仕様をまとめる必要があります。しかし、これらはいわゆる「非定型な業務」のためどんな業務をどのぐらいのボリュームでの定義が難しく、さらにシステム担当ごとに分かれた組織体制では複数名分まとめて取りまとめ役が不在などの要因も加わってきます。

2つ目は、「キャッシュアウトの妥当性を述べづらい」が挙げられます。当然ながら委託範囲を広げることは委託することでのキャッシュアウト(支出)が多くなります。
ある意味では、今まで内製していたのでコストが最適化されていたものを、負荷を減らすというだけでキャッシュアウトを増やすのは企業の決裁論理として成り立ちにくい状況があります。
※明確に社員が労働基準法を違反している状況がある等の要因があれば別として
その為、空けたリソースをどうするかまでのプランが必要となりますが、今も回っていないのにそれを先回りしてプランすることもかなりのハードルの高さとなります。

<ベンダー側の視点>
3つ目は、「スキルセットと体制確保の難しさ」が挙げられます。社員が元々になってた上記の業務は、決められた手順ではなく、ユーザニーズをくみ取り、最適な落としどころを考え、実行の段取りをつけていく話になり、ユーザ側の業務や背景の理解も必要になってくるため、難度が高い業務になります。こういった人材は、ベンダーとしてもそうそう多く提供できることは少ない状況となります。

運用・保守を委託可能なベンダーは数多く存在しますが、自社のことを理解し、社員業務を担えるベンダーはそんなに簡単に調達できるものではないのです。
拡大するIT需要に対して、こういった難しさの連鎖がIT組織の社員リソースの慢性的な不足につながっていると考えています。

ではIT組織はどうやってこういった難しさを乗り越え、ビジネスニーズにこたえる持続可能な成長を実現していくのか。
次回以降でその対策の方向性について触れていきたいと思います。

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